The blues of moonlight night

綺麗な上弦の月が見える今日は、夏のくせにちょっと肌寒い風が吹いている。

その下を歩くアタシが右手に持っているのは、薄っぺらい封筒。

淡いブルーの水玉柄。その中に入っているのは、グレーのラインが入っただけの便箋一枚。

別に電話でもメールでも良かったかも・・・そう思ったのは手紙を書き上げた後だった。

ま、たまにはこういうアナログなのも良いわよね。

アタシはそう思い、ところどころ錆が浮いている真っ赤な郵便ポストを目指す。

家から歩いてたったの5分。

お気に入りのサンダルをカランコロンと鳴らして、アタシは歩く。



月夜のブルース
written by sonora




ケンカの理由はたわいもないものだった。

だけどお互い意地を張って、結局仲直りできなかった。それが昨日の朝のこと。

ケンカの相手は、幼馴染のシンジ。

毎朝アタシが起こしに行ってやらないと起きられないどうしようもないヤツ。

昨日のケンカを引きずって、今日の朝は起こしに行かなかったら見事に遅刻してきた。



「もう中2なんだし、いい加減1人で起きられるようになれってのよ」



そんな軽口を叩いてやればよかったのかもしれないけど、結局アタシはそうしなかった。

お互い教室でも一言も話さないまま一日は過ぎ、そして現在に至る。



「・・さむ」



吹いてくる風が冷たくて、アタシは思わず右腕をさすった。

ふと封筒を見ると、しっかりと握って歩いてきたせいか、端っこの方が少しだけ皺になっていた。

アタシは立ち止まってその部分を丁寧に延ばす。

手紙出すだけで結構必死だったのかな、なんて思われたくないから。

皺が目立たなくなったところで、アタシはまた歩き始めた。

ポストまでは、あともう少し。







「何だよ、アスカがいつも僕にそうやって言うからいけないんだろ!?」



「何よそれ! アタシだって別に好きで言ってるんじゃないわよ!!」



「じゃー、そんなこと言うなよな!!」



「もー! いいわよもうっ! アンタみたいなバカなんて知らない!!」



そう言ったアタシはシンジの横をすり抜けて学校まで1人で歩いた。

もうこうなるとどっちが悪かったのかなんて関係ない。

分かるのは、どっちかが折れないと永遠にこのケンカは終わらないってことだけ。

こういうとき先に折れて、ゴメン、と言うのはシンジだった。そして、もう別にいいわよ、と答えるのがアタシ。

でも今回、折れそうな気配はシンジにはなかった。

だからたまにはアタシから折れてやることにした。それがこの手紙。

ごめんね、とか、仲直りしよう、とかは一言も書いてない。

代わりに書いたのは、意地を張るのはやめようってことだけ。

そしてアタシの家からシンジの家に行くより遠いポストに投函すること・・・これがアタシにできる最大限の譲歩。

これを読んでシンジがどう思うかは分からない。

結果を知っているのは神様だけだ。

でも多分、驚いてはくれると思うけど。

なんたって、このアタシからわざわざ手紙を出してやったんだから驚いてもらわないと困る。

ついでに、アタシがわざわざ手紙まで書いて折れてやったんだから仲直りできなくても困る。

この角を曲がればすぐポストに着く。

そう思って何の気なしに曲がったところで顔を上げたら、こともあろうに目の前にシンジがいた。

おばさまに頼まれて買い物に行ったんだろう。手に提げたコンビニの袋には牛乳と卵が入っていた。



「・・あ」



シンジは間抜けな声を上げた。

気まずい一瞬の沈黙。

その後シンジは何事もなかったかのようにアタシの横をすり抜けようとした。

ちぇ、まだ根に持ってるってわけね。

アタシは歩き去ろうとするシンジのTシャツの首根っこを思いっきり引っ張った。



「ぅわ!」



手を離してやると、素早く、しかも思いっきり不機嫌そうにシンジは振り返った。

そんなシンジに、アタシは手に持っていた封筒を押し付けた。



「ん」



「何?」



「いいから、はい」



「コレは?」



「手紙よ。見て分かんない?」



「・・・分かるけどさ」



「なら持ってって。んじゃ、アタシ用事あるから」



「あ、ちょっと・・・」



シンジの声を無視してアタシはまたポストへと向かった。

何メートルか歩いたあとで振り返ると、もうシンジはいなかった。



「切手まで貼ったのに・・・ちょっともったいなかったかも」



そう呟いてみてももう遅い。手紙はもうシンジの手の中だ。

まぁ、いいか。手渡しできたほうが早いもんね。

前向きに考え直したとき、さっきまで目的だったポストにたどり着いた。

古びてところどころさび付いている真っ赤なポスト。

月の光と街灯の光を反射して鈍く光っていた。

アタシは何となくポストを拝むように手を合わせた。

別にそんなことしたって意味がないことは分かってたけど。



「らしくないって、笑ってるかもしれないなー、シンジ」



ホントなら、手紙が届くまでもう一日かかるはずだったけど、予定が早まるのは別にいっか。

とりあえず手紙に書いたとおり、明日の朝、起こしに行ってやんなきゃならなくなったけど。

朝シンジを起こしたら、まずは手紙をどう思ったか聞かなくちゃ。

びっくりした、とか、アスカらしくないと思った、とか いつも通り失礼なことを言うんだろうけど。

それとも、なんとも言えなくてただ曖昧に笑って誤魔化そうとするかも知れないわね。

答えに窮して困った顔で笑うシンジを想像しながら、アタシは来た道を引き返す。

ピンクのワンピースの裾が揺れたって気にしない。

歩いてたったの5分の距離。

お気に入りのサンダルをカランコロンと鳴らして。








タイトル、ネタは小島麻由美の「月夜のブルース」より。
ちょっと甘めの学園物を目指してみたかっただけです。それだけです。すいません。



モドル